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松江地方裁判所 昭和44年(行ク)1号 決定

申立人

原昌子

被申立人

島根県公安委員会

指定代理人

山申二郎

野村和一郎

申立人は、昭和四四年九月二四日午後一時一〇分、

当裁判所に対し、昭和四四年(行ウ)第一号事件として大衆行進路線変更処分取消請求の訴えを提起し、

あわせて処分の効力を停止する旨の裁判を求めたので、当裁判所は、

被申立人の意見をきいた(被申立人指定代理人は同日午後三時一分から同三時五五分まで

当裁判所において口頭で意見を述べた)うえ次のとおり決定する。

主文

申立人の本件申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一、申立人の申立ての趣旨及び理由

別紙一のとおり

二、被申立人の意見

別紙二のとおり

三、当裁判所の判断

本件疎明によれば、本件路線変更処分により変更(削除)された進路すなわち松江市朝日町十字路から松江駅前に至り、同所で、折返し、右朝日町十字路に至る進路を申立人の団体が集団行進した場合には、松江駅前附近における交通が著しく阻害されるおそれがあると認められる。

そうすると、本件執行停止がなされた場合は、行政事件訴訟法二五条三項にいう「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」と認められるから、本件申立てを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。(元吉麗子 野間洋之助 辻中栄世)

(別紙一)

申立の趣旨

申立人の昭和四四年九月二二日付大衆行進許可申請に対し、被申立人が同月二三日付でなし許可に付された条件のうち「(3)公共の安全と秩序に対する直接の危険を防止するための申請にかかる集団示威運動の進路のうち『新大橋→朝日町十字路→松江駅前(折返し)→藤原金物店前』の間を次のとおり変更する。『新大橋→朝日町十字路(右折)→藤原金物店前』」の部分の効力を停止する。

申立費用は、被申立人の負担とする。

申立の理由

一、(事実)島根県公安委員会は昭和四四年九月二三日、申請者原昌子の大衆行進の許可申請に対して、許可処分の条件として大衆行進の進路のうち「新大橋→朝日町十字路→松江駅前(折返し)藤原金物店前」を「新大橋→朝日町十字路(右折)→藤原金物店前」に路線変更をなした。

二、(執行停止の申立理由)

(イ) 大衆行進路線変更は憲法二一条に保障されたる表現の自由権を制限し昭和四四年九月二四日に予定される表現の自由権の一形態としての大衆行進の権利を回復困難な侵害をなすもので、九月二四日の大衆行進の権利行使を回復保障する緊急必要性があり、行訴法第二五条第二項に該当すると考える。

(ロ) 申請者の申請した前記路線での大衆行進が公安委員会の言う「公共の安全と秩序に対する直接の危険」をもたらすものではない。

(ハ) 同一日時行われる松江べ平連の大衆行進については前記路線変更のなされた進路において、その集団示威運動が許可されており、原昌子の申請した進路については路線変更処分をなすのは憲法第十四条に掲げたる平等原則に反するのは勿論のこと、松江べ平連の大衆行進を認めていることは当該進路における大衆行進が「公共の安全と秩序に対する直接の危険」をもたらすものでないことを島根県公安委員会が自ら認めていると言わなければならない。

三、(結論)よつて申立の趣旨どおりの判決を求めて本日本訴を提起したが、ことは本日のデモ行進に関することなので直ちに執行停止がなければ回復不能の損害が生ずる。よつて行政事件訴訟法第二五条第三項により執行停止を求め本申立に及ぶ。

(別紙二)

意見

本件大衆行進路線変更処分(以下単に路線変更という)は松江市集団行進進及び集団示威運動に関する条例第四条第一項五号に基きなしたものでありその理由は次のとおりである。

第一 路線の変更を命じた朝日町十字路から松江駅前までの道路(通称駅前道路)は車道巾員8.5米、両側に巾員3.6米の歩道のある市道であつて松江市内においても交通量が多く、特に松江駅前は同所を起点とする長短距離バスの発着、タクシーの乗降車場、駅の乗降客の交通により常時混雑しているところ、昭和四四年九月二五日行なわれる第八回国政に関する公聴会に出席するため、同月二四日一八時二六分着の特急やくもで佐藤総理大臣を始め一一名の閣僚が松江駅に到着するので、その随行員、報道機関等により同時刻頃松江駅には平日より約二〇〇名増の降車客が見込まれ、且つその出迎人、観迎人が駅前に蝟集し、松江駅前は非常に混雑することが予想される。一六申立人の申請による集団行進路線は朝日町から松江駅前に出て同所を折返すことになつておりしかもその行進時間は一五時から二〇時となつているので、前記佐藤総理等到着時刻に申立人集団が松江駅前において示威運動をし、右混雑を助長し、一般交通が著しく阻害される慮れがある。

第二 申立人は一日内閣粉砕を呼号する粉砕共斗会議の一員であつて申立人集団は右共斗会議員より構成されている。右粉砕共斗会議は島根大学全学共斗会議の所属員を始めいわゆる全学共斗会議の学生等より構成されており、右島根大学全学共斗会議は昭和四四年五月二四日の島根大学封鎖解除の際集団的暴力行為に出て逮捕者、起訴者を出しており、従来許可を得て松江市内で行われた集団示威行進に際しても交通秩序、危険防止に関する諸条件を無視し違法なジグザグデモ、フランスデモ等を行つているので申立人の申請通りの松江駅前折返し路線の示威行進を認めれば駅前で違法な行動に出て大衆に危害を及ぼし甚しい混乱を引き起こし、一般交通を阻害することは明らかであつて、公共の安全と秩序に直接の危険を惹起することは明白である。

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